この夕焼けを、何年も見てきた。茜色から段々蒼く染まっていくこのグラデーションが、昔からとても好きだった。
ここに来る度に思い出す。辛い過去。そして、ゆうきとの沢山の思い出。
楽しい思い出ばかりではなかった。どちらかというと、辛い思い出の方が多かった。それでも、この場所が好きだった。
―この野郎っ!―
蛇が狐に向けて水の球をいくつも投げつける。しかし、それはいとも簡単に避けられてしまった。
狐と化したゆうきは、すかさず鋭い爪で蛇を引っ掻き、スパンと鮮やかに蛇の尾を切り落とす。すると蛇は耳をつんざくような大きな悲鳴を上げ、のたうち回った。切り口から赤紫色の鮮やかな血液が噴き出している。
蛇の尾は転々と地面に血痕を残しながら転がっていき、ポチャン、と音をたてて浅瀬の水の中へ落ちていった。
蛇がゆうきを睨む。地面に倒れたまま、頭だけ起こしている状態だ。
ゆうきは平然と言った。
「お前が犯した罪の報いだ」
こちらからは顔は見えないが、どうやらゆうきは笑っているらしいその声を聞いて、身震いがした。
これが、本当にゆうきなの?
「ねえ、止めないの?」
「俺は陰陽師だ。あいつを助ける義務はない」
茶髪の男子学生に即答され、反論もできないので雪菜は再びゆうきの方へと視線を向けた。
あれがゆうきだなんて、信じられない。だけど、あの狐とゆうきの姿が時たま被って見えるのだ。
腹の底から絞り出すような叫び声。胸が苦しくなるような、そんな叫び。
怒り、悲しみ、憎悪。
その心が悲鳴をあげているのが分かった。
「ゆうき、もう止めて!」
もう、見たくない。これ以上苦しんでほしくない。
気づいたら飛び出していた。
***
憎い。こいつが憎い。母さんを奪ったこいつが憎い。
今度は俺が奪ってやる。こいつの大事なもん、全部奪ってやる。
「赦してくれ」
水蛇が細く黄色い目をいっぱいに見開き、縋るような目をする。
お前が殺したくせに。お前が俺から母さんを奪ったくせに。今更そんな目をするな。
人の命を簡単に奪ってしまえる奴が、赦されると思っているのか。
ふざけんな。
頭の中が真っ白になった。怒りを抑えきれなかった。
意識はほとんど無かった。けれど心には鮮明に何かが焼き付いていて、俺はそれを掻き消すようにもがいた。
頭の奥の方で、何かが壊れる音がした。
そして気づいたとき、俺の姿は人間に戻っていた。
栗色の髪。白く、細い身体。ぬるりとした感触。
嗅覚を刺激する血の臭い。
「雪菜」
俺の言葉に、雪菜が僅かに微笑む。そしてそのまま、ぐったりと俺にもたれかかった。
腕を通して伝わる人間の中の感触。溢れ出す血液や自分への返り血。再び、じっと見つめる。
何が起きたのか理解するまでに、だいぶ時間がかかった。
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