2nd Game


 病院を出てすぐ、母さんの姿が見えた。その隣にいた従兄弟の姿を見て、私は笑みを消す。
「どうしてここに?」
 私が尋ねると、知人は乱れた息を整えた後、母さんをちらりと見やって答えた。
「おばさんが電話くれたんだ。朱君がいた方が涼も喜ぶから、って」
 思わず母さんを睨む。母さんは慌てて目を逸らした。
「じゃあ、せっかくなんだし二人でゆっくり話してきなさい。母さん、先帰ってるから」
 母さんはすらすらとそう言葉を紡ぐと足早にこの場を去ってった。

「ほんとに信じられない」
 従兄弟の朱は言った。
 ここ最近ずっと容態が良くなかったはずだ。それなのに今、こうして二人で公園のベンチに座っている。瞼の垂れてない目で、朱と会話をしている。私はまだ夢を見ているのかもしれない。
 私は朱のほうを見ることができず、公園の噴水をジッと見ていた。隣で朱が苦笑する。
「どうしてそんなに不機嫌なんだ? 病気が治ったんだから、もっといい顔しろよ」
 私は俯く。朱は私の身体が治った理由を知らない。それを思うと少し後ろめたい気分だった。私がこうして生きていられるのは、あと二か月だけなのだ。
「えっと、ごめん。何か気に障ること言った?」
「あ、違うよ。そうじゃないんだ」
 顔を上げて朱を見ると、朱は驚いた顔をした。慌てて涙を拭って、また俯く。
「知られたくなかったんだ」
「何を?」
 黙ったまま答えない私の答えを、朱は静かに待っていた。
 病気になったとき、悩んで苦しんでいた私を支えてくれたのは朱だ。学校のこととか、家族のこととか、何気ない会話を楽しそうに話してくれた。それがとても嬉しかった。
 私はやっと真正面から朱に向き合った。言っておかなければ、一番悲しむのは朱だ。
「もし、私が二ヵ月後に死ぬって言ったら、どうする?」
 色素の薄い、男子にしては長めの茶髪が目の前でさらりと揺れ、大きな瞳が私を覗き込む。思わず目を逸らした。逸らしたまま、悪魔とのやり取りを大まかに話した。声がかすれていたが、朱は一音も聞き逃すことなく話を理解してくれたようだ。
 しかし朱は半信半疑だった。無理もない。私だってきっと、朱の立場だったら相手を心配しただろう。すぐに信じるほうがおかしいのだ。
「信じてとは言わない。私は復讐をするために、悪魔と契約をしたの。だから私は、あいつらを出来る限り苦しめたい」
「涼、何言ってんだよ」
 涼の肩を朱が強く掴む。
「お前、自分が何言ってるか分かってんのか?」
「分かってるよ。私のしていることは間違ってる。でもね、こうでもしないとやってらんないんだよ。分かるだろ朱? あの子は死んだ。あいつらに殺されたんだ」
 そう言うと、朱は悲しそうに瞳を伏せた。罪悪感で胸が痛む。
「ほんとに、二ヶ月しかないのか?」
「ごめんね」
「謝んな馬鹿。自分の言ったことに責任持て」
「うん」
 朱は私の頭に手をポンとのせ笑った。
「分かった、もう何も言わない。俺はお前に協力する。すぐに信じることは出来ないけど、お前はお前のやりたいようにやればいいよ」
 朱はまだ困惑しているように見えた。朱は本当に優しい。

- continue -

08/5/10
2012/04/05 修正