1st Game


 清潔で薬臭い部屋に、私は閉じ込められていた。
「涼、あんたは自分の病気を治すことだけを考えなさいね」
 どんなに苦しくても、母さんはそんなことしか言ってくれない。母さんは私のことなんてどうでもいいんだろう。身体の痛みしか気づいてくれないのだ。
「おやすみ、涼」
 母さんは笑って病室を出て行った。
 もう他の人みたいに暮らすことは出来ない。学校にも行けない。悔しい。私はまだ死ねない。あいつらに復讐をするまでは、死ぬわけにはいかないのだ。
 夜、静まり返った病室に低い声が響いた。
「なら、俺と取引をしないか」
 見ると、そこには黒い服を着た男が立っていた。頭の上には妙な角が生えていて、まるでアニメに出てくるばい菌のコスプレみたいだと思った。
「言霊って知ってるかい? 言ったことが本当に起こるんだ」
 じゃあ私も、口にすれば叶うだろうか。
「ああ、俺がそれを起こしてやろう。条件があるがな」
 男は私の思考に言葉を返した。
 条件とは?
「死後、俺に魂をくれ。それだけでいい」
 そんなの悩むまでもないじゃないか。乗った。
「じゃあ、取引成立だ。言ってごらん、叶えてやろう」
 私はゆっくりと口を開く。
「あいつらに、私と同じ苦しみを与えたい」
 途端に、目の前で光が弾けた。気が遠くなる。
 ――二か月だけ、健康な身体をやろう。お前がそうしたいと思えば、望み通りのことが起きる。お前の好きなようにしろ。

 外の世界は温かい光に満ちていた。
 立ち止まって、考える。残りの命と時間、どう使おうか。私はゆっくりと歩き出した。

- continue -

2012/04/05 修正