for future reference(将来の参考のために)
幸せそうな奴を見ると、その幸せを壊したくなる。自分とそいつとを比べて、ああ俺は何やってんだろうってため息をつく。でもそんなの、きっと俺だけじゃない。自分より幸せな奴を見たらイライラする奴なんて、他にもたくさんいるだろ? 順風満帆で、何の苦労もなく笑ってる奴。世界が自分を中心に廻っていると思っている奴。そういう奴らばっかなんだよ、俺の周りは。
何が学歴だ。何が結婚だ。何が家族だ。何が友達だ。何が才能だ。ああもうイライラする。
俺は学校すらまともに行っていない。だから、学校というものを少ししか知らない。今は、近くのコンビニでバイトをしている。あまり頭のよくない俺でも、レジくらいなら出来るのだ。
たまに何もかもが嫌になる。俺は世間から見放された人間なのだ。そう考える。自分からそうなったんじゃないか、と言われればそれまでだが。
時々ぼーっと空を眺めているときがある。何も考えず、ただ何時間もずっとぼーっとしている。そういう時間がとても好きだ。けれどあまり公園に長居すると、近所からおかしな目で見られるので、ほどほどにしておく。
――死にたい。
本気で最近そう考えている。自分でも、精神的に病んでいるのかもしれないということは分かっている。けれど、本当に今の状態が苦しい。ただ生きるためだけに働いているということが、苦痛で仕方がない。
もっと上手くやれば、俺にだってもっと輝かしい未来が待っていたはずなのだ。普通に学校へ行って、就職して、好きになった女と結婚する。子供を生んで、一生懸命育てて、孫の顔を見る。そして、家族に看取られながら笑って死ぬ。それが俺の理想だった。理想だったのに。
縄を握る手が震える。天井からぶら下げた長い縄。これに首をひっかけ、椅子から足を離せば多少の苦しみはあれどさっさと死ねる。
わかってる。わかっているのに、死ねない。
怖い。死ぬのが怖い。死ぬまでの苦しみがどれほどのものなのか、想像がつかなくて怖い。
結局俺は、死ぬ勇気すらない駄目人間なのだ。
けれど朝が来ればいつも通りに支度をして、出かける。いつも通りに働いて、クタクタになって帰ってくる。そして今日の自分を振り返り、落ち込みながらビールを一缶空ける。テレビをつけ、馬鹿な芸人を見て笑う。
そんなことの繰り返し。結局俺は、そうやって死ぬまで延々と苦しみ続けるのだろう。
- end -
2009/04/30