喪ったやさしさは もう二度とは戻らないものですか
しあわせなんて、知らない。
家族なんて、クソだ。
仲間なんてクソだ、友情も愛情も、くだらない。
だけどあの子は特別。
あの子は唯一の私の理解者。村で変人扱いだった私の、たったひとつのつながり。
だから裏切られた理由が分からないの。
あの子は私を置いて逃げた。あの怯えた眼差しを、きっと私は忘れない。
けれど信じていたわ。
アナタにまた会えると。
だからずっとここで待っていたの。
戻ってくるのにそう時間はかからなかったわね。
「君の同士だよ」
旅人さんは言った。
頬に掠ったナイフの傷が、熱い。
ドクドクと流れる血が、私を掻き立てる。
ああ、愚かな人。
自然と笑ってた。
私、今までにないくらいワクワクしてる。
たくさんのナイフが私に向かって飛んでくる。
私はそれらを上手く避け、ナイフのひとつを旅人さんに投げ返した。旅人さんは軽々とかわす。
旅人さんはなかなか戦闘経験が豊富なようだ。コートを脱ぎ捨てたその姿を見て確信する。腰にさした銃。ポケットの膨らんだベスト。
なぜ、なぜこの人はこんなにも私の破壊欲を掻き立てるのだろう。
気に食わない。
なぜかその姿がマリーと重なるから。
こんな無愛想な男との共通点なんてどこにもないはずなのに。
マリーだけじゃない。色んな顔がフラッシュバックする。なぜ?
あの子をチラリと見やると、震えながらも私たちの様子を見守っていた。
布が邪魔で顔は見えないけれど、だいたい予想はつく。
私を見る目はきっと怯えてるのだ。
そう考えると少し、いやかなり腹立たしい。
私だけを見ていればいいのに!
腹が立つから傷つけた。
全部全部奪ってやった。
なのに、なぜ私を見ない。
私を、そんな目でしか見ない。
悔しい。
憎い。
愛してたのに。
いいえ、愛してる。
今でもこんなに。
「クソ共め! みんなみんな、殺してやる!!」
言葉とは矛盾して私の笑みは濃くなる。
胸は高鳴る。
殺す。絶対にこいつらを、殺す。
裏切り者め。
私の大事なアナタ。
ずっとずっと一緒よ。
そうたとえ、命滅びようとも。
- continue -
08/9/8